京都・出町柳の長徳寺で人気急上昇中の早咲きの桜であるオカメ桜とは
例年3月半ばに見頃を迎えて話題となる、早咲きのオカメ桜。
濃い紫紅色の花を下向きにつけ、遠くからでも目立つ桜です。
京都では、出町柳の長徳寺のオカメ桜が有名ですが、他にもオカメ桜を見られるスポットがいくつかあります。
2021年は開花が早く、京都では3月上旬から見頃を迎える見込みです。
オカメ桜とは
オカメ桜はどんな桜か
桜は日本原産の花ですが、オカメ桜は日本から遠く離れた地で誕生しました。
オカメ桜は、1947年にイギリスで誕生した、比較的新しい桜の園芸品種です。
著名な桜研究家であったイングラム氏によって作出され、日本に里帰りしてきた桜です。
秋咲きの桜であるアーコレードもイングラム氏によって作られました。
品種名は単に「オカメ」ですが、普通はオカメ桜と呼称されます。
普通は品種名を○○桜という呼び方をすることはありませんが、不思議とオカメ桜と呼ぶのがしっくりきます。
オカメ桜という名前の由来は、日本の美人をイメージしているそうです。
「おかめ」は古くは美人の代名詞として使われたこともありますが、近代以降は、普通不美人の代名詞です。
少なくとも命名された1947年には、「おかめのような・・・」というのは女性に対する褒め言葉ではなかったはずです。
京都では、オカメ桜は例年3月中旬に見頃を迎えます。
早咲きの桜としては、寒桜(カンザクラ)や河津桜(カワヅザクラ)などに次いで早く開花します。
オカメ桜は、カンヒザクラ(寒緋桜)とマメザクラ(豆桜)の交雑種です。
樹形は広卵状をしており、あまり大きく成長しないのも特徴です。
そのため、個人宅のお庭に植える桜としても人気が出つつあります。
京都では、千本釈迦堂にも同じ読みの「阿亀桜(おかめざくら)」があります。
千本釈迦堂の阿亀桜は、「おかめ伝説」で知られる阿亀(おかめ)さんに由来する固有名詞です。
千本釈迦堂の阿亀桜は、桜の種類としては、エドヒガン(江戸彼岸)の枝垂桜です。
阿亀桜もオカメ桜ほどではありませんが、ソメイヨシノよりもやや早く開花します。
単に「おかめざくら」と言った場合、千本釈迦堂と長徳寺のどちらをさすのかわかりにくい場合が多いです。
近年では、長徳寺のオカメ桜の方が知名度が高くなっています。
オカメ桜の両親であるカンヒザクラ(寒緋桜)とマメザクラ(豆桜)
オカメ桜は、桜の自生種であるカンヒザクラとマメザクラの種間雑種です。
両親であるカンヒザクラとマメザクラを簡単に紹介します。
どちらも京都では比較的珍しい桜です。
カンヒザクラ(寒緋桜)
カンヒザクラ(寒緋桜)は、台湾南部から中国南部にかえて自生するサクラの野生種です。
日本でも、石垣島などで自生している群落がありますが、人間が持ち込んだものが逸出して野生化したものと考えられています。
日本でよく見る桜の中でも一目で識別できる特徴があります。早咲き、花が下向きに咲く、花が濃紅色など。
いろいろな早咲きの桜の園芸品種の片親となっています。
オオシマザクラ(大島桜)との交雑種であるカワヅザクラ(河津桜)のほか、マメザクラ(豆桜)との交雑種であるオカメ桜、ヤマザクラ(山桜)との交雑種であるカンザクラ(寒桜)、シナノミザクラ(支那実桜)との交雑種である啓翁桜(けいおうざくら)、天城吉野(あまぎよしの)との交雑種である陽光などが知られます。
ソメイヨシノが開花しない沖縄では、桜前線の基準木になっています。
気象庁では今もヒカンザクラ(緋寒桜)と呼んでいますが、エドヒガン(江戸彼岸)の別名であるヒガンザクラ(彼岸桜)との混同を避けるため、一般的にはカンヒザクラ(寒緋桜)と呼ばれています。
オカメ桜の濃紅色の花色と、早い開花期、花が下向きに開く点は、カンヒザクラから引き継いだものです。
マメザクラ(豆桜)
マメザクラは富士、箱根などを中心とした本州中部に分布するサクラです。
花の大きさも、樹の高さも桜の仲間としては小さめなのが名前の由来です。
京都を含めて本州西部では、萼筒(がくとう)が非常に長い変種であるキンキマメザクラ(近畿豆桜)が分布します。京都周辺の山野でも自生しています。
秋咲きの桜である、十月桜(ジュウガツザクラ)や冬桜(フユザクラ)の片親となっていますが、マメザクラを片親とする桜の園芸品種はそれほど多くはありません。
それなりに有名なのはウミネコ(海猫)くらいです。
オカメ桜を作出したイングラム氏
桜に魅了された桜研究者
オカメ桜を作出したのは、前述のとおりイングラム氏です。
日本の桜の歴史に名を残す、イギリスの桜研究者コリングウッド・イングラム(Collingwood "Cherry" Ingram)。
1880年に生まれたイングラムは、1902年に21歳で日本を初めて訪れたました。
日本の文化と芸術に魅了され、中でも日本の桜に強い関心を持ちました。
1926年に再び日本を訪れたイングラムは、絶滅の危機に瀕していた日本の多彩な桜の品種を収集し、イギリスで保存することを決意しました。
日本全国を回って桜を保存する啓蒙活動を行うとともに、珍しい品種の収集を行いました。
日本の桜を救ったイングラム
イングラムが集めた多彩な品種により、イングラム邸は桜園と言われるようになりました。
イングラムは、桜の収集だけではなく、人工交配によって新しい品種の作出にも乗り出しました。
アーコレードのほかにも、カンヒザクラ(寒緋桜)とマメザクラ(豆桜)の交配種であるオカメや、オオシマザクラ(大島桜)とマメザクラ(豆桜)の交配種の海猫(ウミネコ)などが、日本でも近年人気が高まっています。
古い書籍に記録はあるものの、実物がないため日本では既に絶滅した品種とされていた太白(タイハク)が、イングラムのコレクションから再発見され、日本へと里帰りしました。
今では太白はサトザクラの代表品種のひとつとして、京都に限らず全国いろいろなところで見ることができます。
ソメイヨシノ(染井吉野)一色に塗り替えられ、消えていこうとする日本の多彩な桜を救った恩人として日本でも広く敬愛されています。
世界的な桜研究者として"チェリー"イングラム(Collingwood "Cherry" Ingram)と敬称されるようになりました。
イングラムは、1981年に満100歳の長寿を全うして亡くなりました。
今もイギリスのイングラム邸では、多彩な日本の桜を見ることができます。
オカメ桜を見るときには、日本の桜を救ったイングラムにも思いを馳せてみましょう。
出町柳・長徳寺のオカメ桜
長徳寺とは
長徳寺は、桜南隣の常林寺、正定院とともに「砂川の三軒寺」と称される浄土宗の寺院です。
豊臣政権でフィリピン貿易を担当し、マニラ侵攻計画を進言したともいう長谷川宗仁が開基で、長徳寺の境内に墓があります。
1918年8月10日の夜に数百名の群衆が目の前の出町橋付近に集結し、事態を収拾するために軍隊が出動しました。いわゆる「米騒動」です。
全国が騒乱状態へとなった米騒動ですが、軍隊まで出動する騒動へと発展したのは、長徳寺のあたりが初めてです。
長徳寺のオカメ桜と向かい合う一にある北向地蔵尊は、かつて百済王の念持仏だったのが飛鳥時代に長徳寺へと渡来したものである、という伝承があります。
拝観情報
拝観 | 通常非公開 |
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住所 | 京都市左京区田中下柳町34-1 |
アクセス | 京阪「出町柳」より1分 |
オカメ桜は門前なので、川端通から見学可能です。
長徳寺のオカメ桜
川端通のすぐ東側にある長徳寺の桜シーズンは、3月初めのカンヒザクラからはじまります。
カンヒザクラは、オカメ桜の片親にあたる早咲きの桜です。
長徳寺のオカメ桜は、ソメイヨシノより半月以上早い、例年3月10日頃から咲き始めます。
2021年は2月中からオカメ桜が咲き始めました。
新聞等でも、長徳寺のオカメ桜の開花はニュースとしてよく取り上げられます。
長徳寺のお寺自体は通常非公開です。
しかし、長徳寺のオカメ桜は門前に植えられているため、誰でも見ることができます。
ただし、長徳寺の門前はお寺の駐車場になっており、チェーンで立ち入り禁止になっていることもあります。
チェーンがあるだけなので、無視して入っている人も少なくありませんが、マナーは守りましょう。
ほんの10年ほど前まで、長徳寺のオカメ桜は知る人ぞ知る桜でした。
2010年代も後半ごろから早春の早咲きの桜として注目を集めるようになり、最近では長徳寺のオカメ桜といえば、開花期には平日でも朝から10人以上の人が集まる人気ぶりです。
ピーク時に試しに数えてみたところ、何と36人もいたことがあります。長徳寺のような小さなお寺の門前としては、異例のことです。
もともと長徳寺のオカメ桜は門前の1本だけでしたが、今はオカメ桜が3本にまで増えています。
長徳寺のオカメ桜のすぐ前には京都市バスのバス停「出町柳駅前」があります。バス待ちのサラリーマンがスマホでぱしゃりとしている光景も良く見かけます。
着物姿の外国人観光客の姿も見かけることもあります。
日本でもガイドブックには載らないような長徳寺のオカメ桜ですが、外国人も含めて知る人ぞ知る存在でした。
不思議な光景を楽しめる長徳寺のオカメ桜
上のオカメ桜の写真は、一見すると普通の写真ですが、よく見ると「長徳寺」の文字が反転しています。
実は、向い側にある北向地蔵尊の窓ガラスに映った桜です。
ガラスへの映り込みを使って面白い写真を撮れることもあります。
長徳寺のオカメ桜は、こんな写真が撮れるところも人気の秘密かもしれません。
数羽のメジロが長徳寺のオカメ桜へと蜜を吸いに集まっています。花の中心部の赤みが濃くなってきており、そろそろピークは越えつつあるようです。
長徳寺のオカメ桜には、メジロだけではなく、スズメもよく見かけます。
足下を見ると、地面がピンクに染まっています。この時期ならではの楽しみ方です。
桜は咲いているときだけでなく、散るときまで美しいのが魅力のひとつです。
やや小ぶりな花を咲かせるオカメ桜は、散ったときの姿もまた魅力的です。
京都のソメイヨシノの平年開花日は3月28日です。
京都でソメイヨシノが開花するころには、長徳寺のオカメ桜はもう半ば散りかけています。
しかし、散りつつあるオカメ桜はは、花に濃紅色の萼が混じり、花だけのときより味わい深い眺めを楽しめます。
4月に入ると、長徳寺のオカメ桜もいよいよ終了です。
2018年の台風21号により、大きな枝が折れる被害を受けましたが、2019年もいつものように見事に咲きました。ありがとうございます。
出町柳駅は、叡山電鉄平坦線の始発駅として、1925年に開業しました。
1931年には京都市電今出川線が開通し、加茂大橋停留所との乗り換え駅として廃止される1976年まで賑わいました。
1989年には京阪の鴨東線(おうとうせん)が三条から出町柳まで延伸され地下駅が開業しました。
鯖街道の終着地として知られる出町商店街は、鴨川を挟んだ西側に位置します。
京都でオカメ桜を見られるスポット4選
京都でオカメ桜が見られるのは、出町柳の長徳寺だけではありません。
長徳寺以外の京都でオカメ桜を見られるスポットを4ヶ所紹介します。
① 京都府立植物園〈左京区〉
京都府立植物園には、様々な品種の桜が園内各所に植えられています。
広大な園内の半木神社(なからぎじんじゃ)南側にある桜苑と、北山門前の桜品種見本園にオカメ桜があります。
桜苑では、一角にある秋冬咲きの桜を集めたコーナーの開花よりも遅いですが、桜苑の大半を占めるソメイヨシノや八重紅枝垂桜よりも半月ほど早く開花します。
梅も同時期にピークを迎えています。
園内には多彩な桜が咲き、寒桜(カンザクラ)や河津桜(カワヅザクラ)、椿寒桜(ツバキカンザクラ)、修善寺寒桜(シュゼンジカンザクラ)がオカメ桜よりも先に開花します。
オカメ桜と同じころに、寒緋桜(カンヒザクラ)、支那実桜(シナノミザクラ)なども開花します。
オカメ桜でけではなく、たくさんの早咲きの桜たちが見られるのも、京都府立植物園ならではの楽しみです。
北山門前の桜品種見本園では、同時に雪柳(ユキヤナギ)も見頃を迎えます。
純白の雪柳に紫紅色のオカメ桜が映えます。
京都府立植物園について
1924年に開園した日本を代表する京都の植物園です。京都府民の休日のお出かけ定番スポットです。
広い敷地をぶらぶら歩けば、植物が約12,000種。
桜や梅、つばき、花しょうぶ、あじさいなど昔から親しまれてきた植物のほか、バラ園など左右対称の造形美が楽しめる洋風庭園など変化に富んでいます。
熱帯の植物が見られる温室もあります(別途入館料が必要です)。
入園情報
休園日 | 12月28日~1月4日 |
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入園時間 | 9:00~17:00(受付終了は16:00) |
拝観料 | 一般 :200円 高校生 :150円 中学生以下:無料 |
TEL | 075-701-0141 |
住所 | 京都市左京区下鴨半木町 |
アクセス | 地下鉄「北山」よりすぐ |
公式ホームページ:京都府立植物園
② 賀茂大橋西詰〈上京区〉
京都で最も有名な長徳寺のオカメ桜から、鴨川を隔てた賀茂大橋の西詰のやや下流側の河川敷に、2本のオカメ桜があります。
長徳寺にはオカメ桜目当てで人が集まりますが、河川敷のオカメ桜は訪れる人も稀です。
「オカメ桜」との表記があるわけではありませんが、花の色や形、咲き方などの特徴から明らかにオカメ桜です。
長徳寺のオカメ桜と同じ遺伝子を持っているはずですが、日照条件や土壌が異なるのか、長徳寺のオカメ桜と比べて開花はやや遅めです。
オカメ桜が散り始めると、北側にある枝垂桜が咲きはじめます。
オカメ桜が咲く場所は、ちょうど北村美術館の真裏(東側)にあたります。
北村美術館は、古美術や茶道具を中心としたミュージアムです。
林業などの実業家として活躍し、茶人としても知られた北村謹次郎氏のコレクションをもとに1977年に開館しました。33点もの重要文化財を所蔵しています。
2021年の桜シーズンは、 春季茶道具取合展 「露地清晨」が3月6日(土)から6月6日(日)まで開催されています。
北村美術館:北村美術館
賀茂大橋について
今出川通に架かる賀茂大橋は、1931年に架橋されました。
同時に京都市電今出川線が延長され、銀閣寺道から北野白梅町までを結んでいましたが、1976年に廃止されました。
賀茂大橋のすぐ上流部にある賀茂川と高野川の合流点は、通称「デルタ」と呼ばれています。
近隣住民や、京大生、同大生などの憩いの場として親しまれています。
③ 百万遍知恩寺(ひゃくまんべんちおんじ)〈左京区〉
長徳寺から東へ10分ほど歩いた、百万遍知恩寺でもオカメ桜があります。
東大路通とを結ぶ西門を出てすぐのところに、一本のオカメ桜が咲いています。
百万遍知恩寺の早咲き桜といえば、オカメ桜ではなく本堂前に咲く「ふじ桜」の方がよく知られています。
固有名詞っぽい名前の桜ですが、富士桜とは豆桜(マメザクラ)の別名です。オカメ桜の片親でもあります。
富士山のあたりで多く自生しているのがフジザクラという別名の由来です。
マメザクラというと白いイメージですが、野生種だけあって個体差の幅が大きいのでしょう。
百万遍知恩寺について
京都にある浄土宗四本山の一角です。
1331年に善阿空円が7日間で百万遍念仏を唱えて疫病退散の効験があったため、「百万遍」という寺号を賜りました。
京都内で度々移転をくり返しましたが、1662年に現在地へと定まりました。
「百万遍」というのは通称で、長らく正式名称は知恩寺でした。2019年から正式に百万遍知恩寺という寺号になりました。
毎月15日には、450以上のお店がでる「手づくり市」が境内で開催されることでも知られています。
拝観情報
拝観時間 | 9:00~17:00 |
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拝観料 | 境内自由 |
TEL | 075-781-9171 |
住所 | 京都市左京区田中門前町103 |
アクセス | 京阪「出町柳」より10分 |
公式ホームページ:浄土宗大本山百萬遍知恩寺 | ようこそ、浄土宗大本山百萬遍知恩寺へ
④ 知恩院前(華頂道)〈東山区〉
知恩院前の華頂道には、街路樹として河津桜(カワヅザクラ)が植えられているのは知る人ぞ知ることですが、そのうちでももっとも東(知恩院側)の1本は、河津桜ではなくオカメ桜です。
どちらも早咲きの桜であり、片親がカンヒザクラ(寒緋桜)なので見た目も似ています。
オカメ桜と知った上で植えられたのか、間違って混ざってしまっていたのかは気になるところです。
知恩院前について
東大路と知恩院を結ぶ華頂通の両側には、かつて知恩院の塔頭群がずらりとならんでしました。
今もの一部が京都華頂大学・短大、華頂女子高校、浄土宗宗務庁になった以外は、塔頭群が残っています。
見学情報
アクセス | 地下鉄「東山」より10分 京阪「祇園四条」より10分 |
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おわりに
ソメイヨシノに先駆けて3月半ばに開花し、毎年話題になるのがオカメ桜です。
京都では、出町柳の長徳寺が有名です。
あまり見かけない品種の桜ですが、最近では個人のお庭なんかでも見かけることもあります。
今後も、京都にはオカメ桜の名所が誕生していくのではないでしょうか。
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