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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【387】|MK新聞連載記事

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MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2020年7月1日号の掲載記事です。

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 本だけ眺めてくらしたい

欧米でヒットしているミュージックビデオを観ていると、多くの、というか、今やたいていのミュージシャンが、日本で言うところのイレズミ、向こうで言うところのタトゥをしている。
荒々しさを誇示するハードロックバンドの筋肉隆々な男の上腕だけでなく、万人向けのポップスを歌う美形の人気女性歌手も、二の腕やら手の甲やら首やら肩甲骨あたりやら横腹やら、そこらじゅうにしている。
日本と欧米の彫りの技術的な違いは詳しく知らないが、文化的な違いはメディアを通じてなんとなく感じられる。ただ欧米でも、かつてはある種のコミュニティに属する人がタトゥをしているというキャラクター表現が映画の中にもあったが、今は若者を中心に以前にくらべ明らかに一般化しているようだ。
コロナ前、海外旅行客が増加する中で、日本の下町文化の一つである銭湯を体験したいと外国人が望んでも、「『イレズミお断り』で外国人、銭湯入れない問題」が浮上していた。日本ではイレズミは特定稼業や集団の象徴だが、「文化が違うのだから海外旅行客は特別に入れてあげたら」という意見もあった(番台でパスポートを見せて銭湯に入るのか?)。
また日本では、若気の至り? でタトゥを入れたものの、結婚して子どもができて、夏休みに「イレズミお断り」のプールに一緒に行ってあげられないから、「消したい」というママさんの相談が整形外科で近年増えているという話を聞いたことがある。
それはともかく、なぜタトゥをする若者が増えているのか。私にはその気持ちが理解できない。本人の自由だし、批判するつもりはない。ただ、それが素敵な模様や気の利いた言葉であっても、いや、逆にそうであればあるほど、印象的なタトゥであるほど、単純に「あきないのかなぁ」というのが最大の疑問として私にはある。服のように毎日着替えることができないのに――。
他にも素朴な疑問はある。自分がたまたま施術してもらう彫り師の腕前を信頼、出来栄えやデザインに満足しているのだろうか。カネや人脈があれば、その道で有名な人に頼めるだろうが、ほとんどの人はたぶんそうではない。仕上がりなんてあまり気にしていないのではないだろうか。
ある社会では身体は仮りの着ぐるみ。望むと望まぬとにかかわらず、死ねば着替えることになるけれど(人間の姿とは限らないが)、別のある社会では死んでも身体を燃やさず、いつかリユースして永遠に着続けるつもりだろうに。

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

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MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

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