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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【373】|MK新聞連載記事

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MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2019年5月1日号の掲載記事です。

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本だけ眺めてくらしたい

八十歳の女性とその孫娘がこの春、そろって同志社大学に入学するという記事がこの三月二十九日付の京都新聞市民版に掲載されていた。祖母の名は阪田美枝さん。
阪田さんの編著書『日本の紙漉き唄』(1992)は、私の蔵書の中でも特に愛着のあるもののひとつである。

著者自身が全国各地で収集した紙漉き唄を書籍とCD四枚にまとめたものだ。
CDには紙漉き職人が歌うのを現地録音した、いわゆる作業唄八十曲以上と談話を収録。
書籍には唄の歌詞と楽譜、解説などが記されている。
それだけではない。この労作が特別である理由は、それぞれの産地で漉かれた貴重な和紙の現物がこの和本仕立ての書にとじ込まれているところにある(現在ではもう手に入らない和紙も少なくないのでは?)

私は本が好きだが、言わば本は紙の束であり、そもそも紙が(特に手漉き和紙が、また発展途上国の素朴な紙や新開発のファインペーパーも含めて)好きなのだ。
子どもの頃から、指の腹で様々な紙の表面をなでては、その感触を官能的に愉しんでいたほどである。

また、遊び唄や子守唄、労働歌など世界中の庶民の唄に関心がある。
本が発売された頃、編集者であった私は著者への取材を企画し、ライターと共に阪田さんにお会いし、直接話をうかがうことができた。
当時、三十歳前の会社員だった私が自費で購入した3万8千円(税込)という一冊の本の価格は正直お高いものだった。
今回の新聞記事を読みながら、阪田さんの「貴重な和紙の現物を収めることができた。みなさんの協力なしにこの価格では出版できなかった。価格以上の価値がある」という言葉を思い出し、懐かしく思った。

ところで、私は日本酒が好きだ。呑むだけでなく、酒蔵の訪問記や杜氏を取材したルポ、酒造りの歴史や文化に関する研究書、飲酒にまつわるエッセイなど、酒に関する本も好きでよく読む。
ある時、『日本の酒造り唄』(1999)という本の存在を知り、早速取り寄せた。
CD四枚とセットだという。入手して現物を前に著者名を改めて意識してみると、はて、どこかで見たような名前。あ、紙漉き唄の阪田さんじゃないか。
書名と、唄を収録したCDが四枚……これで、当初からなぜ気づかなかったのか(笑)。
阪田さんが投げる球は私にとって、どストライクゾーンへのストレートなのであった。 

阪田美恵編著 1992年 竹尾研究所

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

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MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)



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