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フットハットがゆく【299】「汗顔の至り」|MK新聞連載記事

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MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2018年10月1日号の掲載記事です。

汗顔の至り

最近、『汗顔の至り』な出来事がありまして…。
『汗顔(かんがん)』とは、「顔に汗をかくほど恥ずかしく感じることや、その様子。赤面。」であります。
僕のように常に汗かき多汗症(たかんしょう)は、夏場の間など基本的に汗顔(あせがお)なのですが、それは特に恥ずかしいことがあって汗顔(かんがん)になったというわけではありません。
しかし先日実際に汗顔に至った理由は、とても恥ずかしい内容でした。

とある人との会話の中で僕は、「本当にこうがんのいたりです」と、言ってしまったのです。
話の流れ的には、「いやはや、お恥ずかしい次第です。」というニュアンスで使ったので、日本語的な正解は、やはり『汗顔(かんがん)』であります。
なぜ自分が『こうがん』という言葉を使ってしまったかを考えてみたのですが、実はよくある間違いのようです。
『こうがん』という表情が最初に思い浮かぶのは、『紅顔』でしょうか。顔が紅くなるほど恥ずかしい…と考えると、別に『紅顔の至り』でも間違いではない気もしますが、実際調べると『紅顔』とは《年が若く血色のよい顔、「紅顔の美少年」などと使う。》だそうで、五十手前のおっさんの僕が自分で『紅顔』というのはちゃんちゃら可笑しい、ということになります。
では、『厚顔』はどうでしょうか? こちらも『こうがん』と読み、調べると、《面の皮のあついこと、恥知らずでずうずうしいこと、「厚顔無恥」などと使う。》だそうで、「誠に厚かましくてすみません、厚顔の至りです。」と言っても間違いではなさそうですが、実際の日本語辞書には、厚顔の至り、も、紅顔の至り、も載っていません。
つまり使い方として間違いなのです。
ということで、僕の会話相手は心の中で、「こいつは、かんがんのいたり、と言わなければいけないところを、こうがんのいたり、と言った。なんて学のないやつなんだ。」と思ったと思うのです。
恥じ入る言葉の使い方を間違う、それこそまさに「汗顔の至り」。

こういうことを考え始めると、僕は夜も眠れなくなり、不眠症に陥り、夢見も悪くなりますので、なんとか自分に言い訳と逃げ道を作りたいのです。
確かに僕は「こうがんのいたり」と言いました、あぁ言いましたとも。でもそれは汗顔を言い間違えたのではなく、最初から「こうがん」と言いたかったのですよ。
こうがんといえば「睾丸」ですよ。いわゆる男性のたまたまのことです。
睾丸を打った時の痛みは、男性最悪、死ぬほどの痛みです。
「いやはや、お恥ずかしい次第です。まさに睾丸の痛みほど、痛苦しい思いです。」と言いたかったのです。「至(いた)り」に聞こえた部分は「痛(いた)み」だったのですよ。
え? 確かに「いたり」と言った? あぁそうですか、それは「至り」ではなく「Italy(イタリー)」です。イタリアのことです。
イタリア人というのは自己主張が激しくいつも大きな顔をしているのですが、そんなイタリア人も小顔(こがお)になってしまうほど恥ずかしい、「小顔のイタリー」と言いたかったのです。
今日はこの辺でお許しを(汗)。

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