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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【396】|MK新聞連載記事

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MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2021年4月1日号の掲載記事です。

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本だけ眺めて暮らしたい

古書店で売っているのは、新刊書店で市販された本だけではない。
近年、アンティークの雑貨や置物、玩具などを売る、おしゃれな古本屋も登場し……というような話ではなく、昔から、古文書、スクラップ帖、句歌の短冊、絵葉書なども販売している。
あるいは、地下本(艶本)。今回は私が持っているものから二つ、ご紹介しよう。
まずは、ガリ版の資料。おそらく、大正から昭和初期のもの。当時の性に関する研究団体「相対会」の報告書で、この分野に関心のある人には有名、基本的な文献だ。
のち(戦後、昭和20年代)に相対会の関連団体が復刻版を刊行しているが、ガリ版のオリジナル原典は貴重。

報告書は活版の雑誌(冊子)として創刊されたが、わいせつ出版の規制当局の度重なる摘発、経費の不足、印刷所の機材や物資調達の困難などが重なり(素人の勝手な想像)、最後には手書きの謄写版として続けざるを得なかったのだろう。
いつどこで購入したか憶えていない。たぶん、青空古本市の均一台で掘り出したのだろう。私が買ったのだから、せいぜい300か、500円までに違いない。
現在ではその一部が河出文庫で出版され(しかも無修正)、誰でも簡単に入手できる時代になった。ただ、何冊か出版されたが大半は品切れ。
次は小説『人面鬼』。これも当時は公刊すれば摘発される地下本。やはり河出文庫になったが今は品切れ。異常性愛者の秘密結社所属のサディストが語る性の残酷物語だと紹介されている。

私は、昭和27年(1952年)に刊行された原典(上中下巻)ではなく、写真製版で印刷、複製したものを古書店で買った。片面印刷の紙を青いビニール紐で和綴じしてある。
誰かが、知人が所有していたものを借りて複製したのか、複製して転売していた業者から買ったのか。また、いつごろ複製されたものなのか。
原典が手に入りにくいから地下本を複写する人もいたのだろうが、たとえ購入可能だったとしても、当時は高価だったのかもしれない。

かつての地下本は、今では大手出版社の文庫本で読めるし、実は、原典版もマメに探せば文庫本と同程度の安価で買える(ただし、古書目録では逆に1万円を超える値付けの地下本もある)。
この『人面鬼』は、本物ではない複写本ゆえの興味で手に入れた。

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「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

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MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

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